目次 > 第3回・第4回勉強会を開催しました。

 

 

■第4回勉強会の概要


日時 平成24年7月11日(水)
場所 TKPガーデンシティー札幌きょうさいサロン
参加 44名(会員:24名、非会員:20名)
講演 政治混迷の中の地方
講師 山口 二郎 (北海道大学大学院法学研究科教授)
 
 

■勉強会


皆さんご存知の通り、山口先生は行政学を専門としており地方政治・地域政策に対する造詣も深く、当研究会の活動の一環として北海道があるべき姿を考えるヒントを得ようと、中央政治の現状と地方の関わりを主題にご講演を頂きました。

 

 

日本のなかの歪 ~地域の疲弊~

講演の冒頭で、いくつかの社会・経済指標を用いて我が国の地域間格差についてお話されました。都道府県別の「所得と総生産」「転出転居数」「海外売上高」「法人所得」をみると、ほとんど東京一極集中、ひとり勝ち状態となっており、愛知や大阪も(概ねプラス側に位置しているということで)頑張ってはいるものの、東京との差は開きすぎているという現状を資料でご説明されました。そして、三大都市圏以外の地域は軒並みマイナスの状況にあり、特に人口は首都圏と愛知県を除く地域がみんなマイナスという状況で、我が国の「歪」はますます広がる様相を呈していることを知ることが出来ました。

 

さらに、日本全体として主要国に比べて、雇用者報酬の伸びが最も悪いこと、相対貧困率の高さ、社会保障の割合が低いことを指摘されました。この中で、租税負担は最も少ないのに税金が高すぎると感じる国民の割合が欧州よりも高い点を指摘されました。この理由として、中間層における社会保険等の逆進性の問題はあるものの、日本人は相手に対する不信感に満ちた国である(ISSPCitizenship2004)というデータを引用して、自分以外の他者に対する信頼の欠如(高齢者の無駄な医療費、役人の高い給料、生活保護不正etc…)によるものではないかとのことでした。もっと他者の困難に気持ちを寄り添わせることが必要で、それが民主主義を立ち直させることに繋がるとのことでした。

 

 

様々な地方分権の考え方

日本列島改造論の時代から、脈々と続いてきた中央と地方の関係、特に補助金依存と中央に対する従属の構造から脱却する必要性、つまり地方分権の必要性について述べられました。その分権論は大きく、

①国土論的分権論、

②行政改革としての分権論、

③国政論としての分権論

に分けられ、これが地域主権を語る上で非常に重要だと言うことでした。①は主に予算や国土・インフラを均衡化し地域間平等を目指すもので、上記の中央・地方の従属構造のなかで継続して行われてきたもの、②は地域に権限の移譲を進めることによる分権というもので、行革によって国と都道府県・市町村といった自治体の関係が見直されなければならないとのことでした。今日、大阪や東京、愛知方面で志向されているのは主にこの流れとのことで、例えば地方交付税を廃止して消費税を地方税にしたら、多くの産業が集積し人口が多いこれら地域は確実に恩恵を受けるわけで(もちろん他の地域は余計苦しくなる)、彼らの狙いはここにあるのではないかというご指摘でした。③の国政論とはいわゆる道州制(連邦制)の議論です。

 


山口講師による講演

 

北海道が勝ち残る地方分権とは

山口先生は、②のような大都市圏のための地域分権の持つ危険性を指摘し、道州制の枠組みを通じて北海道のような「辺境」からの革命によって地域が自立していくことの重要性を説かれました。その際の戦略的課題としては、地方政府の力量向上、手切れ金(一定の地方財源?)をもらった上での自立構想策定、例えば“食”と“エネルギー”という優位性を生かす戦略等を挙げていました。さてそれを誰が担うかということですが、北海道庁が中核になるのはもちろんですが、政治家や行政だけに任せきりにしないことが大事だということでした。ただ個人レベルだけでは難しいし危うい側面もあるので、間に入る中間団体が重要なのだそうです。あまり中間団体の具体的イメージは聞けませんでしたが、ここにも北海道スタンダード研究会の今後の活動のヒントが隠されている気がします。

 

最後に意見交換の時間を設け、会場から多数の質問や意見が寄せられて活発な質疑応答がありました。その中でひとつ、北海道のなかの札幌一極集中についてどう考えるかという質問が会場からありました。これに対して山口先生は、札幌が道外に流出する人のダムになっている点を評価した上で、(札幌に集中しても)さらなる雇用の創出や住み易さをアピールしていけたら良いのではというお話でした。そういう考えもあるのでしょうが、個人的にはやはりある程度均衡の取れた北海道であって欲しいと思うものです。

 


勉強会の様子

 

■意見交換会


講演会終了後、別室に場所を移し、意見交換会を行 いました。たまたま山口先生の誕生日だったこともあり、サプライズ企画でケーキのロウソク点灯、花束贈呈を行いました。会場は大変盛り上がり、有意義な意見交換会となりました。

 


意見交換会の様子

 

■おわりに


今後も北海道スタンダード研究会のメンバー、技術士会の会員のみなさまを交えて、様々な趣向を凝らした勉強会を開催していく予定です。皆さんの勉強会へのご参加をお待ち申し上げるとともに、今後とも引き続きご支援の程よろしくお願いします。

 

 

 

 

■第3回勉強会の概要


日時 平成24年5月25日(金)
場所 TKPガーデンシティー札幌きょうさいサロン
参加 38名(会員:27名、非会員:11名)
講演 「北海道スタンダード」創出の背景として
講師 熊谷 勝弘氏(伊藤組土建)
 
 

■勉強会


第3回勉強会は、長く北海道開発行政に関わってこられた元北海道開発局長の熊谷勝弘氏を講師にお招きし ました。熊谷勝弘様は現在でも伊藤組土建の副社長と してご活躍されており、この研究会のテーマである「北海道スタンダード」に関わる見識をお聞きし、研究会の活動成果へのヒントを得るのが目的です。

ご講演のテーマは、『「北海道スタンダード」創出の背景として』とされました。

 

 

北海道スタンダード創出への課題

この研究会のテーマである「北海道スタンダード」の対象は、常に幅広い分野に関係しますが、熊谷講師からは、そうしたスタンダードの形成は決して容易ではなく、長い時間と財力がまず必要と語られました。また、社会的背景も大きく影響するとし、過去の北海道開発の背景には、日本政府が、石炭の供給地として北海道を必要としていたということを挙げられています。今後しばらくは原子力発電との共存は必要になるかもしれないが、現在、日本のエネルギー事情は大きな転換期を迎えており、北海道はメタンハイドレートのような新たなエネルギー資源に目を向けていくべきだとの想いも合わせて語られました。熊谷講師の講演は、北海道が抱える諸問題に留まらず、農林水産分野でのTPP問題、製造業の海外移転に対する政変などの政治リスクの欠如など、現在の日本が抱える様々な問題にまで及びました。

 

また、北海道観光が抱える問題にも触れられ、自然景観の良さに慢心し、景観形成への視点が大きく欠如している点を挙げられました。例えば、自然景観を売り物にするのは良いが、天候が悪いと観光する場所がなくなってしまうこと、北海道の温泉街では旅館やホテルが館内飲食店による客の囲い込みを進めたために温泉街の魅力を破壊してしまったこと、日本の観光地の“三大ガッカリ”として有名な時計台では、街としての景観育成の概念が乏しいことなどです。北海道はもっと、景観や観光地の形成に関して、もっと欧米の意識を参考にすべきであり、北海道は歴史が浅い分だけ思い切った施策がやりやすいはずだとも述べられました。熊谷講師は、こうした現状の課題から北海道の観光産業に対する大きな危機感を話されました。

 

北海道は観光とともに、“食”の面でも日本の大きな基盤となり得る地域です。北海道では今ある“食”の文化をさらに発展させる役割があり、その方向性を示すことが必要ですが、食クラスター特区と地域産業の立地との兼ね合いは、なかなか難しいという認識もお話しされました。北海道では新たな技術を開発する企業家が少ないといった点も大きな課題と述べられました。

 

 

背景としての今後の社会経済状況

地域資源や地域づくりと関係なく、旅行会社や企業等が中間となって、パンフレット等で地域外から集客し、観光を振興させているものである。この場合、地域資源との関係は薄く、観光客をたくさん受け入れることで、発生する利益の大多数は企業のものとなり、地域には還元されない。

 

熊谷講師のご講演は北海道といった地域の視点だけでなく、わが国が抱える社会経済へと広がりました。現在、不景気と騒がれる日本ですが、他の貧しい国と比較して果たして本当に不況なのだろうかという点を指摘されました。確かに中国や韓国の台頭には目を見張るものがありますが、実際には日本国内にはモノが余っているし、食べ物や飲み水にいたってはこんなに裕福な国はないとし、東日本大震災では、被災者が秩序良く支援物資の行列に並ぶ姿が海外メディアなどで大きく報道されましたが、その根底に「必ず支援物資が受け取れる」という安心感が無意識にあったからだと述べ、日本国民であっても、明日をも知れない危機感があれば暴動が起きても不思議ではないのではと話されました。

 


熊谷講師による熱い講演

 

北海道スタンダード創出のキー

新たなスタンダードを創出するためには現在の規制を打破する新たな規制が必要となってくるとし、そうしたことで地域のオリジナリティが確立されると述べられました。例えば積雪寒冷地での建築技術や冬季仕様は、北海道が新たなスタンダードになる可能性があり、現在の北海道の堆雪幅は旧東北地方建設局(東北地方整備局)との連携で、やっと確保できるようになったとのことでした。

 

また、観光立国スイスを例に挙げられ、規制が景観を作り出し、その規制を社会全体で守ろうとする風潮の重要性を指摘されました。昨今の日本では私人の権利を強く主張しようとする風潮がある一方で、公共への寄与の意識がむしろ少ないということをお話されました。観光資源は自然物に限らず人工的に構築することもできるので、景観形成の点で個人の権利や既得権に左右されないよう、法規制を高めて実行できれば美しい景観を作り出すことは可能と話され、そうした点でドイツを代表とする欧米諸国とわが国の国民意識の違いが課題であると指摘されました。

 

北海道が独自のスタンダードを確立するなら、本州方面と同等ではなく、他地域に無いものを模索すべきなので、国内だけでなく海外に目を向けることが重要だとし、夕張メロンはそうした意味では北海道スタンダードの良い例であり、ナマコもその一つになる可能性が高いと述べられました。

 

いずれにしろ、北海道は国依存からいかに脱却できるかが大きな鍵で、北海道の技術の歴史や技術そのものも観光資源になりうるので、大いにアピールすることも大事だとして講演は締めくくられました。

 

熊谷講師のお話は、北海道という地域の範疇を大きく飛び越え、エネルギー施策、プラザ合意から始まる円高対策、労働力不足にまで波及し、講師独特の語り口で熱く熱く語られる一つひとつのお言葉は、第3回勉強会に参加された皆さんの胸に残ったのではないでしょうか。

 


熊谷講師と会場の熱い議論

 

■意見交換会


講演会の終了後は、熊谷講師も含めて喉を潤しながらの意見交換会が開催されました。意見交換会では、語り足りない(?)熊谷講師のお話と、聞き足りない参加者の皆さんとの会話や意見交換が弾み、心地よい酔いとともに次第に夜も更けてきました。

 


意見交換会の様子

 

(文責:北海道スタンダード研究会 幹事  大槻 政哉)